当初の事業計画

 

事業の目的

【短期専門人材育成コースの開設・実証】

 平成25年2月に福島県地域医療課が発表した「第2次福島県浜通り地方医療復興計画」では、東日本大震災前後の県内病院における常勤医師数の推移を取りまとめ平成24年12月1日時点で64人減少していることを発表した。また、その中でも特に浜通り地方や県中医療圏では、病院が稼働していながら、医師数の減少が大きい郡山エリアや相双医療圏の旧緊急時避難準備区域の病院の医師不足は深刻な状況にあることが報告されている。

 看護師不足も医師不足と同様で平成25年1月1日時点で171人減少していることを発表し、特に相馬エリアと双葉エリアの深刻な状況を発表している。

 

 

 福島県は、こうした医療不足を補うために常勤医等の確保策として県外からの診療応援や医療従事者確保事業等の拡充や看護職員の資質向上等の支援や医療機関による看護職員等確保のための支援事業を拡充し、高品質の医療を安定的に供給するための様々な取り組みを行っている最中である。

 

 本事業は、上記のような状況を踏まえ、医師の診療時間を確保するという観点から、医師の作業の中での紹介状、診断書、医療情報提供書等の文書作成業務および電子カルテの代行入力が出来る医師事務作業補助者を育成し、福島県の医療復興に貢献する。

 

 

前年度までの取組概要、成果と本年度との継続性

(平成24年度事業)
【取組概要】
 福島県の浜通り地方および郡山エリアを中心とした深刻な医師・看護職員が不足している地域に対し、医師事務作業補助者を育成するための教材等を開発し、講座開設により人材育成を行った。受講対象者は、被災地域に居住し、医療関係の仕事に従事したことのある者。

【教材等開発】(仙台保健医療専門学校が受託した事業と共同で開発)
・電子カルテ代行入力教材および問題集を見直し、講座で使用。
・医療文書作成教材および問題集の見直し、講座で使用。
・医療文書学習用ビデオ教材を開発し、講座で使用。
・医療用語集の見直し、講座で使用。
・医療用語集学習用携帯アプリケーション開発着手プロトタイプ版完成
*上記の教材等は人数制限により受講できなかった者や県内の医療関係諸機関に配布。

 

【被災者向け医師事務作業補助者育成講座実施】
日 程:平成24年12月1日(土)・2日(日)・8日(土)・9日(日)計4日 32時間(レポート含む)
講 師:株式会社NIメディカル 伊藤 典子
    :ケアアンドコミュニケーションズ株式会社 柄沢 清
内 容:電子カルテ代行入力、医療文書作成
場 所:ケイセンビジネス公務員カレッジ
受講者:被災地域在住22名
    *受講申込者は61名であったが、電子カルテソフトウェアライセンス等の関係から22名を選抜
結 果:・電子カルテ・医療文書共に概ね良好な講座が実施された。
    ・電子カルテのシミュレーターを使った講座はあまり開かれていないので役に立つ。
    ・医師医務作業補助と医療事務、医療秘書との違いが明確になった。
    ・受講者のレベルがまちまちなのでレベル別講座が必要
    ・時間が少ないので、自宅で学び直せる仕組みや問題集を充実する必要がある。

 

【事業成果および本年度の改善点】
 終了後のレポート提出内容等を評価すると医師事務作業補助業務に対する一定の理解と知識を得ることが出来た。また、講座実施結果から本年度以下のような改善点や再開発が必要な点が明らかになった。

 

①講座受講者の能力レベルのバラツキから教育進度に支障がでるケースが生じた。このような状況から、受講前段階において、一定の能力計測を行うための評価テスト等を開発する必要がある。

 

②開発した教材は、平成17年度に開発を開始し毎年リニューアルをして現在に至っている。特に医療文書に関しては、一般的な文書を網羅的に学習する教材を目指して教材の開発を進めたが、被災地の特殊な事情からこれまでにない文書作成にまで対応せざるを得ない状況となっている。

 

③32時間の教育を通学で行う形式にしたが、遠距離通学や通勤困難地域からの受講などについてのケアーができていない。ロールプレイングで行われるビデオ教材や携帯などのツールを利用した教育を強化する必要がある。

 

④本事業で学んだ実績を自治体や医師会等に評価・認定していただくことや講座修了者の働く場の確保等のしくみについて検討する必要がある。

 

 

教育プログラム・教材の開発内容等

【教材等の開発】
 前年度の実績を踏まえ、下記の教材等を再開発する。なお、教材開発に当たっては教材開発分科会を設置し開発・検討する。

 

■ 医療文書作成教材および問題集

 医療関連法規、医療保険制度、医学一般、薬学一般、医療と診療録等の医師事務作業補助者が理解しておくべき内容を理解する教材を再開発する。
教材は上級編(16時間程度の学習で即戦力として働けるレベル)と中級編(16時間程度の学習で基本的な医師事務を代行する能力を身につける)の2種類を開発し、受講者の能力にあわせた学習内容を提供する。
教育開発の配慮として、現在の医療機関で利用されている医療文書を網羅的に学習できる教材とすることを目指すと共に震災関係で多く取り扱われる特殊な医療文書の作成も学べるよう配慮する。
問題集は、難易度により上級編・中級編に区分し、それぞれに10題程度の問題を開発する。
また、医療文書作成に関しては、現場の医師からもロールプレイング形式で行われるビデオ教材が有効であるとの指摘もあり今年度は5本程度の開発を行う。

 

■ 電子カルテ代行入力教材および問題集

 IT化の流れ、電子カルテの定義、電子カルテ関連知識、電子カルテと地域医療情報システム、電子カルテシステム関連用語、電子カルテ入力演習を16時間程度で学ぶ教材とし、時代に合わせた内容となるよう各項目を見直す。
問題集は、現状のロールプレイング形式の問題集が好評であるために、現在の形式で3題程度の問題を付加する。

 

■ 医療用語集

 教育の補助的な位置づけで開発を行ってきた医療用語集ではあるが、医療現場や受講者から大変評判も良く今年度も継続して開発を行う。なお、今年度の開発に当たっては、現場の医師や医師事務として働いている者からの意見も取り入れてリニューアルする。また、平成24年度から開発を着手したスマートフォンを利用した医療用語学習アプリケーションは、今年度リリースを目指してユーザーインターフェースの向上を図る。

 

【教育内容の認定等】

■ 県・医師会認定プログラムの検討

 本事業の教育カリキュラムや教材は、平成24年度に福島県および医師の方の参画もあり、一定の評価を得ることができた。本年度は県や医師会との連携を強め、受講修了者に対して医師会からの受講修了証の授与および修了者に対する6か月程度の優先的インターンシップ制度について検討する。

 

 

地域の人材ニーズの状況、事業の必要性等

【地域の人材ニーズ】
 本提案書の(1)事業の目的でも記載した通り、県中エリアにおける医師は34人減少したにもかかわらず、震災および原発事故による人口移動や高齢化により65歳以上の高齢者人口は平成23年度現在役66,000人から70,000人に増加している。また、平成25年5月8日に衆議院で開かれた震災復興特別委員会の参考人質疑の中では、福島県南相馬市における脳卒中の発症率が65歳以上で全国平均の1.4倍、35~64歳で3.4倍の確率で発症していることや原因として仮設住宅等でのストレス等であることが報告された。

【実態把握のための視察調査】
 福島県ならではの医師事務作業補助者が持つべき能力や被災地域で使用しなければならない特殊な医療文書の作成状況を把握することおよび現状の医師事務作業補助者の成功事例を持つ病院等を調査し、教材に反映させる。視察調査は、県内および被災地域の病院や自治体を中心に3か所程度。また、現状の医師事務作業補助者育成の成功事例を2か所程度視察する。

 

実証講座等の内容

【講座開催】
 本事業では、レベル別に以下の2つの講座の開催を予定する。なお、募集に当たっては、昨年度効果の高かった新聞広告による告知を行うこととする。


■ 中級医師事務作業補助者育成講習

a.講座の内容および目標
被災地のクリニック等で働く医師事務作業補助者に必要な医療文書作成および電子カルテ代行入力について学ぶ。
b.募集人員:20名
c.対象地域:被災地域を中心とした福島県内
d.開設時期等:平成25年12月~平成26年2月 (32時間程度)
e.主な対象者
被災地域のクリニック等で医師事務作業補助者として働くことを目指す者およびすでに医師事務作業補助者として働いている者

 

■ 上級医師事務作業補助者育成講習

a.講座の内容および目標
被災地の病院等で働く医師事務作業補助者に必要な医療文書作成および電子カルテ代行入力について学ぶ。
b.募集人員:20名
c.対象地域:被災地域を中心とした福島県内
d.開設時期等:平成25年12月~平成26年2月 (32時間程度)
e.主な対象者
被災地域のクリニック等で医師事務作業補助者として働くことを目指す者およびすでに医師事務作業補助者として働いている者

 

 

成果の普及・平成26年度以降の事業展開の予定(自校・他校・企業・団体・地域との関係)

1.成果報告会の実施
 医師事務作業補助者の育成は、震災からの復旧・復興はもちろんのこと県内における医療体制の整備という意味からも重要な人材と考える。従って、本事業で行った取組実績は市町村および県内に設置されている医療機関等に広く知っていただくために成果報告会を開催する。 

 

2.本校における教育継続
 本事業で開発する教材などを利用し、平成26年度以降に本校付帯教育として継続させることを検討する。また、教育の継続については、医師会や医師の協力を得られるよう本年度から継続に向けた協力体制の構築を目指す。

 

3.教育継続体制の整備
 現状の医師事務作業補助者の能力評価は、32時間の知識の習得と6ヶ月のインターンによって医師が評価するここととなっている。従って、福島県・自治体、医療機関、ハローワークや人材派遣会社と教育機関が連携し、医師が納得する補助者を育成するための継続的な教育体制の整備について検討する。