当初の事業計画

 

事業の目的

 宮城県医療整備課が発表した宮城県沿岸部の医療機関再開状況(2012年3月1日現在)によると、全医療機関再開割合は石巻医療圏で88.1%、気仙沼医療圏では73.2%の再開しか果たせていないことを発表した。同発表の中では、震災以降に廃止・休止状態にある医療機関は81件ともしている。(添付資料参照)
 
 東北大学や気仙沼市立病院などの公表情報、調査結果等によると、震災や長期の避難生活によるストレスなどを原因として、けいれん症状、消化性潰瘍患者、心的外傷後ストレス障害(PTSD)等の発症見られ、患者数も増加していると発表している。

 

 また、地域医療の復興にあたり,ICT(情報通信技術)を活用した地域医療連携システムを構築し,県内どこでも安心して医療を受けられる体制の構築を目指す「みやぎ医療福祉情報ネットワーク協議会」が平成24年6月7日に設立され、事業を開始した。
「みやぎ医療福祉情報ネットワーク協議会」は,宮城県の医療・福祉情報ネットワークの環境整備と利活用を進めることにより,医療の質や安全性の向上を図り,患者中心の地域医療・福祉の向上に貢献する組織として医療・福祉関連情報のネットワーク化を図ることを目的としており、患者情報の一元化という観点から、大規模病院への電子カルテ普及のみならず、小規模なクリニックへも電子カルテを普及していくことが検討されている。

 

 このような状況を鑑み、本事業は、昨年に引き続き医師事務作業補助者を育成し、石巻医療圏・気仙沼医療圏などの医師不足看護職員不足が深刻な地域へ人材を供給することを目指す。また、電子カルテの代行入力が出来る医療クラークを育成し、みやぎ医療福祉情報ネットワーク協議会の事業や宮城県全体の医療体制の向上を目指す。


 

 

前年度までの取組概要、成果と本年度との継続性

(平成24年度事業)
【教材開発等】
 教材の開発に当たっては、福島県専修学校各種学校連合会が受託した「福島県の医師不足を補うための医師事務作業補助者育成事業」と共同で開発を行った。
■電子カルテ代行入力教材・問題集/学生向け・一般向け医療クラーク育成講座で使用
■医療文書作成教材・問題集/学生向け・一般向け医療クラーク育成講座で使用
■医療用語集/学生向け・一般向け医療クラーク育成講座で使用
■ipad版医療文書作成教材/教材検証中

【講座等】
■学生向け医療クラーク育成講座実施/平成24年12月11・12日/東北保健医療専門学校/学生24名
■一般向け医療クラーク育成講座実施/平成25年1月26・27日、2月2・3日/東北保健医療専門学校/受講者被災地域在住28名(受講希望者144名から選抜)
■ipad版医療クラーク育成e-learning教材検証/平成25年2月26日/東北保健医療専門学校/学生28名
■成果報告会/平成25年3月5日/郡山ビューホテル(福島県専各連受託事業と共同開催)/参加者23名(宮城・福島の病院や行政、学校関係者等が参加)

 

【事業成果等】
平成24年度に本校学生向け講座および一般向け医療クラーク育成講座を行い、座学終了後のレポート提出内容等を評価すると医師事務作業補助業務に対する一定の理解と知識を身につけることが出来たと認識している。
 また、教材開発や成果報告会などは福島県専各連受託事業と共同で行ったために受講者情報の共有や県内医療情報等を持ち寄り有意義な教材開発等を行うことができた。
 しかしながら、平成24年度の講座実施結果から以下のような教材等に対する改善点や再開発が必要な点が明らかになったために、本年度事業において以下の対応を行い更なる充実を目指す。

 

【教材等の改善ポイント】
■ 受講希望者数が想定を大幅に超過し、多くの希望者の中から少ない情報で受講者を選ぶこととなり、講座受講者の能力レベルのバラツキから教育進度に支障がでるケースが生じた。このような状況を解消するために、受講前段階において、「医師事務作業補助者の理解度」「コンピュータオペレーション能力」「医療知識」を計測するための能力評価テスト等を開発する必要がある。

 

■ 平成24年度に使用した教材は、平成17年度に開発を開始し数年間のリニューアルを経て現在に至っている。特に医療文書に関しては、一般的な文書を網羅的に学習する教材を目指して開発を進めたが、時代の流れや被災地の特殊な事情から、これまでにない文書作成にまで対応せざるを得ない状況となっている。このような状況に合わせた教材の再開発が必要である。

 

■ 本事業を継続的・発展的に拡大・普及させるためには新たな講師の育成が必要不可欠である。特に医療文書作成部分を担当する教員は不足しており、安定的に良質の教育を行うことが困難な状況となっている。そこで、本年度は教員育成プログラムの新規開発を行う必要がある。

 

■ e-learning教材は、昨年度から開発に着手し、ipad上でビデオを展開し医療文書を作成して行くものは出来上がった。学生のアンケートからもビデオ展開までの時間的な負担やユーザビリティの改善等が望まれている。このようなことから本年度はユーザビリティの改善とビデオ配信サーバを構築し、ユーザーのニーズに答える必要がある。

 

 

教育プログラム・教材の開発内容等

【教材等の開発】
 上記の教材開発のポイントを踏まえ、本年度は下記の教材等を再開発する。なお、昨年度は福島県で受託した類似事業と共同開発を行い成果を上げたことから本年度も類似事業が受託された場合に共同で以下の開発を行うこととしたい。

 

■ 医療文書作成教材および問題集

 医療関連法規、医療保険制度、医学一般、薬学一般、医療と診療録等の医師事務作業補助者が理解しておくべき内容を理解する教材を再開発する。
 教材は上級編(16時間程度の学習で即戦力として働けるレベル)と中級編(16時間程度の学習で基本的な医師事務を代行する能力を身につける)の2種類を開発し、受講者の能力にあわせた学習内容を提供する。
 教育開発の配慮として、現在の医療機関で利用されている医療文書を網羅的に学習できる教材とすることを目指すと共に震災関係で多く取り扱われる特殊な医療文書の作成も学べるよう配慮する。
 問題集は、難易度により上級編・中級編に区分し、それぞれに10題程度の問題を開発する。

 

■ 電子カルテ代行入力教材および問題集

 IT化の流れ、電子カルテの定義、電子カルテ関連知識、電子カルテと地域医療情報システム、電子カルテシステム関連用語、電子カルテ入力演習を16時間程度で学ぶ教材とし、時代に合わせた内容となるよう各項目を見直す。
問題集は、現状のロールプレイング形式の問題集が好評であることから、現在の形式で3題程度の問題を付加する。

 

■ 医療用語集

 教育の補助的な位置づけで開発を行ってきた医療用語集ではあるが、医療現場や受講者から大変評判も良く今年度も継続して開発を行う。なお、今年度の開発に当たっては、現場の医師や医師事務として働いている者からの意見も取り入れてリニューアルする。

 

■ 医療文書作成教員養成教材

 次年度以降の講座開講機会の拡大することを目的として、医療文書作成教員育成用教材を開発する。講座内容は、本事業で開発する医療文書作成教材の内容を熟知し、受講者に的確に教育を行える人材の育成を目指す。なお、教員養成時間数としては10時間程度のボリュームを想定する。

 

■ 医療文書作成e-learning

 昨年度の検証を踏まえ今年度は一般的な医療文書はもちろんのこと被災地のみで利用されている特有の医療文書の作成を行うことが出来る人材育成やユーザビリティの向上に重点を置き開発を進める。
 ○ビデオ教材内蔵型の教材を開発したが、ビデオ教材の本数が増加することやその際のデータ容量負担の増加を前提としてビデオ配信サーバによるコンテンツ配信を行うシステムを開発する。
 ○昨年度の検証結果から学習を円滑に誘導するためのインターフェースが不十分であるという意見が多くあげられた。ことから学習シナリオと画面デザインの見直しを行い、学ぶ過程とその誘導を再度設計する。
 ○ビデオコンテンツは、昨年度開発した教材で質的には申し分の無いものが出来上がった。今年度は、昨年度学習対象としなかった被災地特有の文書作成も取り入れビデオを3本程度新たに作成する。

 

 

地域の人材ニーズの状況、事業の必要性等

 気仙沼市立病院と東北大学の共同グループは、東日本大震災前後における気仙沼市立病院の神経救急入院患者の変化を震災から過去3年間にさかのぼり、けいれん患者(頭部外傷や脳卒中などの急性疾患を有さない)の割合が全神経疾患のうちそれぞれ11%、5%、0%であったのに対し、2011年には患者数が20%と増加したと発表した。また、その原因として、生命の危機に瀕するような震災を経た後のストレス環境が、けいれん発作の誘発を増加し得るとしている。

 

 また、東北大病院消化器内科の飯島克則講師、菅野武医師らの調査によると、宮城県内で胃・十二指腸潰瘍などの消化性潰瘍のうち、心因性ストレスが原因とみられる患者が震災前の3倍近くに増えたと発表。震災で広域の住民が同時期にストレスを受けたことで、ストレスと疾患の相関関係が浮き彫りになった。

 

 上記のような震災後に増加する発病の変化や被災地域で使用しなければならない特殊な医療文書の作成状況を把握するために医療機関等に対して視察調査を行う。視察調査は、県内および被災地域の病院や自治体を中心に5か所程度。また、現状で医師事務作業補助者を導入して医療が円滑に行われている成功事例を持つ地域を2か所程度視察する。

 

 

実証講座等の内容

【講座等の開催】

■ 学生向け医師事務作業補助者育成講習

 ○講座の内容および目標
  被災地のクリニック等で働く医師事務作業補助者に必要な医療文書作成および電子カルテ代行入力について学ぶ。
 ○開設時期等:平成25年12月〜平成26年1月 (16時間程度)
 ○主な対象者:本校医療系学生

 

■ 中級医師事務作業補助者育成講習

 ○講座の内容および目標
  被災地のクリニック等で働く医師事務作業補助者に必要な医療文書作成および電子カルテ代行入力について学ぶ。
 ○募集人員:30名  *講座告知は新聞広告を3回程度を予定
 ○対象地域:被災地域を中心とした宮城県内
 ○開設時期等:平成25年9〜10月 (32時間程度)
 ○主な対象者
  被災地域のクリニック等で医師事務作業補助者として働くことを目指す者およびすでに医師事務作業補助者として働いている者

 

■ 上級医師事務作業補助者育成講習

 ○講座の内容および目標
  被災地の病院等で働く医師事務作業補助者必要な医療文書作成および電子カルテ代行入力について学ぶ。
 ○募集人員:30名 *講座告知は新聞広告を3回程度を予定
 ○対象地域:被災地域を中心とした宮城県内
 ○開設時期等:平成26年1・2月 (32時間程度)
 ○主な対象者
  被災地域のクリニック等で医師事務作業補助者として働くことを目指す者およびすでに医師事務作業補助者として働いている者」

 

■ 医療医師事務作業補助者育成教員研修

 ○講座の内容および目標
  医療医師事務作業補助者の仕事の中の医療文書作成を担当することができる教員を育成する。
 ○募集人員:10名
 ○対象地域:岩手・宮城・福島県
 ○開設時期等:平成26年2月 (10時間程度)
 ○主な対象者
  医療系専門学校等の機関で教員として教育経験のある者および医療機関で研修担当者・その予定がある者

 

■ 医師事務作業補助者育成e-learning教材検証

 ○講座の内容および目標
  e-learningシステムの動作確認およびe-learningによる教育効果を検証する。
 ○開設時期等:平成26年2月 (3時間程度)
 ○主な対象者:本校医療系学生

 

 

成果の普及・平成26年度以降の事業展開の予定(自校・他校・企業・団体・地域との関係)

【成果報告会の実施】
 医師事務作業補助者の育成は、震災からの復旧・復興はもちろんのこと県内における医療体制の整備という意味からも重要な人材と考える。従って、本事業で行う取組み実績は市町村および県内に設置されている医療機関等に広く知っていただくために成果報告会を開催する。

 

【医師事務作業補助者育成に関する仕組みづくり】
現状の医師事務作業補助者の能力評価は、一定の知識の習得と6ヶ月のインターンを経て医師が評価する事になっている。従って、県・自治体、医師会、医療機関からの教育に対する評価・認定に関するしくみやハローワークや人材派遣会社と教育機関が連携し、人材供給スキームを確立するための特定非営利法人やコンソーシアム等の設立を検討する。